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宮若探訪~貝島炭砿での仕事~

最終更新日:
2010.07探訪写真

新菅牟田坑の水平坑道で活躍するディーゼル機関車(昭和37年ごろ撮影)

貝島炭砿での仕事

作文:江口孝義さん(愛知県豊田市)・平成19年筆

 

新菅牟田砿(新菅砿)の主幹線坑道は、水平坑道で成り立っている。主幹線坑道の延長に「卸」と言われる斜坑があり、石炭の採掘現場へと繋がっていた。今回は、ディーゼル機関車(DL)の運転をしていた当時の思い出を書いてみた。竪坑坑底からそんなに遠くない所に、DL運転手と「棹取」と言われる炭車を操作する人たちの詰所があった。「DL」は「一ひとかた方」八台あり、三交替だから運転手は一日二十四人が働く事になる。

 

時には体調不良や有給休暇で欠員があると、連続勤務(重勤)となる。特に二番方から三番方といって夜中への重勤は辛く、睡魔と戦いながらの運転中、前方の炭車に気付くのが遅れ、慌ててブレーキを踏んだが間に合わず、追突する事も何度かあった。石炭を満載した炭車を引いている時、前方に列車が止まっているのに気付いて急ブレーキを踏んでも簡単には止まらず、機関車に積んでいるスリップ防止用の砂をレール上に撒いて、やっと止まった事もある。

 

新菅砿でただ一カ所立体交差している所があった。そこは北卸東卸と南卸西卸の空実車と実車線である。南・西線が実車線で北東線の上を通っていたため、南西卸方面より来るDLは加速を付けなければ登り切れない時がある。前方に登り切れない車両がいた時は、脱線しないよう速度を調整しながら前の車両に追突させ、連結しなければ自分の車両が取り残されてしまう事になる。初めの頃はよく失敗したが、慣れるに従いうまく出来るようになった。一度だけ失敗して応援を要請した事があり、後で先輩にしかられた。

 

坑内は何時も同じではない。時には線路の中に、大きな岩石が落ちている事もある。乗り上げれば脱線、もしくは転倒の可能性もある。まったく気を許すことが出来ない。空車や硬(ボタ)を積んだ実車の傍で坑道を拡げる仕繰作業をしている人がいる線路の運転は、気を許す事が出来ない。こんな時は減速して連結しやすくする配慮をしなければならない。だが、牽引している炭車は、この時とばかりお構いなく後ろより押して来る。そんな時は線路に砂を撒き、やっと減速させた事が何回いや何十回あった事だろう。坑道によっては、地下水が天井から滝のように流れ落ちている箇所もあった。夏は多少濡れても気にならないが、冬は寒くて一度濡れると風邪をひいてしまう事もある。そんな場所ではマイトの空箱のダンボールを利用して、雨よけにした事が何度かあった。

 

雨で思い出した事をもう一つ書いてみる。竪坑の坑底近くは入気孔側のため、地上で雨が降っていると湿った空気が入って来るのを感じ、また「今日も雨か。傘がないがどうしよう」と考えながら運転したものだ。そんな雨の日は、地上に上がると通称「繰り込み場」といわれた建屋で、傘を持った奥さんや子どもが迎えに来ている。一度に多くの坑夫が出て来る中で、すぐに旦那さんを見つけ、笑顔で傘を渡す奥さんもいれば、なかなか出て来ず不安そうな顔をしている奥さんもいる。たばこに火をつけうまそうに吸いながら出て来ただんなさんを見つけると、うれしそうに歩み寄り、傘を渡しているのを思い出す。

 

帰り道でどんな話に花が咲いたのだろうか?重勤や残業やでしばらく待っても上がって来ない坑夫の家族は、降りしきる雨の中がっかりして帰って行く光景が、今でも鮮明に甦ってくる。

 

※このページの作文・写真は、広報みやわか平成22年7月号の「宮若探訪」で掲載したものです。

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